MEDICAL十二指腸潰瘍とは
十二指腸は、胃と小腸の間にあって、膵液や胆汁などを分泌して食物の消化を助ける臓器です。指を十二本並べたくらいの長さであることから十二指腸と呼ばれます。十二指腸潰瘍とは、何らかの原因で胃酸が十二指腸の粘膜を溶かし、十二指腸の内側の壁がただれて深く傷ついている状態のことです。
ピロリ菌感染が原因になって生じる場合が最も多く、次いで非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)の服用によるものがあります。ピロリ菌感染が原因の十二指腸潰瘍は、除菌治療に成功することで再発を防ぐことができます。
主な症状は、腹痛や出血による貧血、黒色便(タール便)で、胃潰瘍は食後の腹痛が多いのに対し、十二指腸潰瘍は空腹時や夜間の腹痛が多い傾向があります。胃壁に比べて十二指腸壁は薄いため、出血や穿孔(腸に穴が開くこと)のリスクが比較的高いとされています。
急激な腹痛が出現した場合、すぐに医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
MEDICAL十二指腸潰瘍の原因
十二指腸潰瘍の原因の約95%は、ヘリコバクター・ピロリ菌が深く関わっていることが明らかになっています。また、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)によっても引き起こされます。
NSAIDsは市販薬の痛み止めにも含まれている場合がありますので、みぞおちの痛みなどお腹の症状がある場合は服用を控えてください。また、医師の処方した薬に含まれている場合は、可能であれば処方を変更してもらうと良いでしょう。
また、ストレスや高脂肪食、喫煙などによって胃酸分泌が過剰になると十二指腸潰瘍の発症リスクになる可能性もあります。
MEDICAL十二指腸潰瘍の症状
十二指腸潰瘍で最も多い自覚症状は、みぞおちの辺りの痛みで、空腹時や夜間・早朝に起こることが多いです。胸やけや胃もたれ、吐き気、嘔吐、食欲不振を伴うこともあります。
逆に自覚症状がない場合もあります。十二指腸潰瘍は進行すると、出血や穿孔(腸に穴が開くこと)を伴うことがあり、吐血や下血(黒色便)、貧血(頻脈、冷や汗、めまいなど)、激しい腹痛を起こすことがあります。出血を起こしていても、痛みがないこともあるため注意が必要です。
MEDICAL十二指腸潰瘍の検査
十二指腸潰瘍の検査では、バリウム検査や胃カメラ検査が行われます。胃カメラ検査は、十二指腸の粘膜の状態を直接観察でき、潰瘍の広がりや深さ、悪性か良性かを判断することができます。
悪性の病変が疑わしい場合は組織を採取して病理検査で確定診断を行うことができるほか、潰瘍から出血している場合には内視鏡で止血処置を行うこともできるため、胃カメラ検査を行うことをお勧めします。当院では、鎮静剤を用いた完全無痛の胃カメラ検査を行っていますので、安心してご相談ください。
MEDICAL十二指腸潰瘍の治療
食事療法・生活指導
十二指腸潰瘍の発症初期では、出血の危険性があるため、十二指腸の安静と過剰な胃酸分泌を避けるために食事制限を行います。食事制限の内容は、消化の良い柔らかいもの(白身魚や鶏肉、豆腐、卵、野菜スープ、煮物など)を食べたり、食事を数回ずつ少量にわけて摂取することが勧められています。
急性期を過ぎると、通常通りに食事を摂っても構いませんが、規則正しい食事習慣を続けることが重要です。また、辛い食べ物や酸味の強い食べ物、脂っこい食べ物、アルコール、たばこ、カフェイン、炭酸飲料などは避けてください。特にたばこは、潰瘍の治癒を遅延させて、再発しやすくします。
薬物療法(初期治療)
十二指腸潰瘍の薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH₂受容体拮抗薬(H₂ブロッカー)などの胃酸分泌抑制薬や、胃の粘膜を保護し組織修復を促進する薬剤、胃酸を中和する薬剤、などが用いられます。また、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)による潰瘍に対しては、プロスタグランジン製剤が用いられます。NSAIDsを中止することも大切です。
再発予防治療
十二指腸潰瘍の再発率は約35%と言われており、原因はさまざまですが再発リスクの高い病気です。胃酸分泌抑制薬を6週間服用することで80%以上の改善が見られますが、約1年間は薬を継続的に服用して治すことが望ましく、症状が良くなったからといって薬の服用を自己判断で中止しないようにしましょう。再発予防のためには、暴飲暴食や過剰な飲酒を避けるなど、胃腸に負担をかけない食生活を心がけることが大切です。
脂質の多い食事や辛いものを控え、野菜不足にならないように注意しましょう。
また、ストレスも原因の一つですので、休息や睡眠をしっかりとってストレスを溜め込まないようにしましょう。
そして、十二指腸潰瘍の最大の再発予防治療は、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法です。ピロリ菌の除菌によって、十二指腸潰瘍の再発率は大幅に減少することがわかっています。
ピロリ菌は、十二指腸潰瘍だけではなく胃潰瘍や胃がんなどにも深く関係している細菌です。ピロリ菌の除菌は、十二指腸潰瘍の予防や再発だけでなく胃潰瘍や胃がんを防ぐ有効な方法となります。
MEDICAL出血性潰瘍と穿孔性潰瘍
通常の潰瘍は、食事制限や生活指導、薬物療法によって治癒しますが、出血性潰瘍や穿孔性潰瘍、難治性潰瘍、狭窄症例などは入院や手術が必要な場合があります。
出血性潰瘍
出血性潰瘍とは、潰瘍部分の血管から出血が起こった状態です。この状態は緊急を要する場合が多く、迅速な診断と治療が必要です。出血性潰瘍は吐血や下血(タール便)が見られることが多く、貧血を起こします。
潰瘍から出血が起こると、まずは内視鏡を用いて止血治療を行いますが、止血が困難な場合は血管内カテーテルによる止血や外科手術が行われる場合もあります。出血性潰瘍は一度治癒しても、再発すると再出血することが多いので注意が必要です。潰瘍で最も多い合併症です。
穿孔性潰瘍
穿孔性潰瘍とは、十二指腸の潰瘍が進行して壁に穴が開き、腸管の内容物が腹腔内に漏れ出してしまう状態です。突然、非常に激しい腹痛を伴うことが多く、緊急手術が必要な場合があります。十二指腸穿孔を防ぐためには、その前段階である十二指腸潰瘍を予防または早期に発見して治療することが大切です。
胃が重い、みぞおちの辺りが痛い、胸やけや不快感がする、などのお腹の症状が続いていたら、なるべく早めに胃カメラ検査を受けましょう。
難治性潰瘍・狭窄症例
潰瘍を何度も繰り返すと、だんだん治りにくくなったり、狭窄したりすることがあり、手術が必要になることがあります。NSAIDsが原因の十二指腸潰瘍は難治化しやすく、出血などを合併しやすいとされてします。
また、ピロリ菌を除菌したとしても、NSAIDsを内服することで潰瘍の再発を引き起こすこともあります。
監修医師 安江 千尋
院長資格
- 専門医
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- 日本内科学会総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 指導医
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- 日本消化器内視鏡学会指導医
- 日本消化器病学会指導医
所属学会
- 日本内科学会
- 日本消化器病学会
- 日本消化器内視鏡学会
- 日本大腸肛門病学会
- 日本消化管学会