MEDICAL 胃潰瘍とは
胃潰瘍とは、胃酸によって胃の粘膜が消化されてしまい、胃の内側の壁がただれて深く傷ついている状態です。通常、胃は胃粘液を分泌することで胃酸から胃壁を守っていますが、何らかの理由でこの胃粘液の分泌が正常に行われない場合、胃酸が胃壁を直撃し、潰瘍が形成されます。
胃潰瘍が起こる原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染による慢性的な炎症、解熱鎮痛薬(NSAIDs)や抗菌薬の内服、アルコールの過剰摂取、喫煙、暴飲暴食、ストレスなどがあります。胃壁は胃酸によって傷ついても速やかに修復されますが、上記のような原因が影響すると、本来の防御機能では間に合わないほど傷ついてしまい、胃潰瘍になります。胃潰瘍は以前は男性の発症が多い疾患でしたが、更年期の50代の女性や、若い人の発症率も高くなってきました。
胃潰瘍は、神経質や几帳面、ストレス、気が利く、悩みや責任を抱え込みやすい性格の人が発症しやすい疾患です。粘膜のダメージを修復して炎症を繰り返さないようにするためには、原因を取り除いて薬物治療をする必要があります。
潰瘍や炎症が長期間続くと、胃がんリスクの高い萎縮性胃炎に進行してしまう可能性がありますので、症状に気づいたら早めにご相談ください。
MEDICAL胃潰瘍の原因
ストレス
胃潰瘍の原因として多いのは、過労や睡眠不足、不安などからくる肉体的・精神的ストレスです。ストレスがかかると、交感神経が活発になり、胃酸の分泌が増加します。過剰な胃酸は胃の粘膜を刺激し、潰瘍ができやすくなります。
また、ストレスは胃粘膜の血流を減少させ、胃粘液や重炭酸の分泌が低下します。これにより、胃粘膜の防御機能が弱まり、胃酸や消化酵素によるダメージが増加します。急性の強いストレスは急性胃潰瘍の原因にもなっています。
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染
ピロリ菌は、らせん状の形をした菌で、胃の粘膜に生息します。胃酸の強酸性環境でも生き残る能力があり、感染すると長期間にわたり胃に留まることが多いです。主に幼少期に、汚染された食べ物や井戸水などを介して感染したり、家族間で人から人へと口を介して感染します。
感染したピロリ菌はウレアーゼという酵素を分泌し、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、このアンモニアにより胃酸を中和して胃に住み着きます。胃潰瘍の原因の7割以上がピロリ菌であるとされています。ピロリ菌に感染すると、持続的な胃粘膜の炎症が起こり、胃潰瘍や胃がん発症リスクの高い萎縮性胃炎などを生じます。
ピロリ菌が原因による胃潰瘍が引き起こされている場合は、2種類の抗生物質と制酸剤を1~2週間服用して、ピロリ菌を除菌すれば、ほとんどは治癒します。
香辛料、胃の刺激
香辛料や熱すぎるもの、冷たすぎるものなどの、胃を強く刺激するものを過度に摂取すると、胃酸の分泌が促進され、胃潰瘍が引き起こされることがあります。
薬の服用
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は痛みや炎症を緩和するために広く使用されている痛み止めですが、この薬の長期服用や高用量使用によって胃に負担がかかり、胃潰瘍になることがあります。NSAIDsは、胃の粘膜を保護するプロスタグランジンの産生を抑制することで、胃の粘膜を荒らしてしまう副作用があります。NSAIDsを使用する際には、胃潰瘍のリスクを軽減するために胃粘膜を保護する薬を併用することが推奨されます。
喫煙・飲酒・コーヒー
喫煙は血管を収縮させるため、胃粘膜の血流を低下させ、胃粘膜の治癒能力が低下し、胃潰瘍の原因となります。また、大量の飲酒やコーヒーの摂取は、胃酸の分泌を増加させて胃に負担をかけるため、胃潰瘍の原因となります。
不規則な食生活
暴飲暴食や、早食い、寝る前の食事などの不規則な食生活は、胃酸の分泌や消化機能が乱れて胃に負担をかけ、胃潰瘍の原因となります。
MEDICAL胃潰瘍の症状
みぞおち辺りの痛み
胃潰瘍で最も多い症状は、みぞおち辺りの痛みです。胃潰瘍は、食後に痛みが生じ、食事量が多いと痛みが長時間続くことが多いです。一方、空腹時に痛みが生じ、食事をすると痛みが緩和する場合は、十二指腸潰瘍が疑われます。
腹痛の強さと胃潰瘍の状態の悪さは必ずしも一致するわけではなく、胃潰瘍にかかっていても痛みをほとんど感じず気が付かないまま潰瘍が悪化してしまい、胃に穴があいてて初めて激痛によって気が付く場合もあります。みぞおち辺りの激痛が生じた場合には、一刻も早い受診が必要です。
吐き気、嘔吐、食欲不振、
体重減少、胸やけ、呑酸(どんさん)
胃潰瘍になり、胃液が過剰に分泌されて胃粘膜のバランスが崩れると、胸やけや呑酸(酸っぱいげっぷ)といった症状が起こります。また、吐き気や嘔吐、食欲不振などの症状が出て、体重が減少することもあります。胸やけは過剰な胃酸が食道に逆流することで起こります。
吐血
胃潰瘍から出血すると(出血性胃潰瘍)、胃酸によって黒くなった血を吐くことがあります。出血の量が多いと、冷や汗や脈拍の乱れ、めまい、ふらつき、血圧低下、激痛などの症状を伴うことがあります。
出血性胃潰瘍は、潰瘍内に露出した血管が破れることによって起こります。吐血した場合、上部消化管(食道・胃・十二指腸など)から出血している可能性が高いため、原因検索や止血のために緊急で胃カメラ検査が必要となります。
当院では、当日緊急の胃カメラ検査も対応しておりますので、ご相談ください。出血量が多いことが予想される場合は、入院施設のある病院での検査・治療が望ましいため、連携する病院をご紹介させていただきます。
下血
下血とは、消化管からの出血により、血液が便と一緒に排出される症状を指します。下血は消化管のどの部位から出血したかによって、その色や状態が異なります。出血性胃潰瘍になると、便に血が混ざり、コールタール・海苔の佃煮のような真っ黒な便(タール便)が出ます。
ショック状態になるほど急激で大量の出血が起こった場合は、赤黒い下血になることもあります。逆に、下血には気が付かないこともあり、貧血になって初めて気が付くケースもあります。下血は、胃がんや大腸がんの症状としても起こります。下血が起こった場合は、病院で内視鏡検査を受ける必要があります。遠慮なくご相談ください。
背中の痛み
胃潰瘍で背中や腰の痛みを起こすことがあります。こうした痛みがある場合は、胃の後方にある膵臓にまで炎症が及んでいる可能性があります。
口臭、酸っぱいげっぷ、胸やけ
胃潰瘍になると、過剰な胃酸分泌や消化不良によって食道内に胃の内容物が逆流することで、口臭が現れたり、酸っぱいげっぷや胸やけなどの症状が起こることがあります。
なお、口臭は胃潰瘍だけでなく、肝炎やピロリ菌感染、胃下垂などの疾患によっても起こることがあります。
MEDICAL胃潰瘍の治療
胃カメラ検査で胃潰瘍を発見した場合、潰瘍内から出血が見られたらまずは止血処置を行います。次に、潰瘍の形状が不規則であったり、境界が不明瞭だった場合、悪性腫瘍の可能性があるため、病変の組織を採取して病理検査を行い、確定診断を行います。近年、効果の高い薬が登場して、ほとんどの良性の胃潰瘍は手術をせずに薬物によって治療ができるようになりました。胃潰瘍は適切な治療を行えば、およそ2~3か月で治ることが多いです。
ただし、症状がなくなったからと、自己の判断で服薬を途中で中止してしまうと潰瘍や炎症自体が治りきらずに、再発を繰り返してしまう可能性が高くなります。再発を防ぐためには医師の指示を守って服薬をしっかり続けましょう。
ピロリ菌に感染している場合には除菌治療が有効ですが、先に胃潰瘍を薬物治療で治癒させてから除菌治療を行います。除菌治療に成功すると、粘膜の炎症が改善するため、胃潰瘍の再発を予防できます。
また、胃への負担となる、暴飲暴食や香辛料、高脂肪食、アルコール、カフェインを避けるなどの食事改善を行ったり、自分に合ったストレスの解消法を見つけることも胃潰瘍の改善と再発予防に有効です。
監修医師 安江 千尋
院長資格
- 専門医
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- 日本内科学会総合内科専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 指導医
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- 日本消化器内視鏡学会指導医
- 日本消化器病学会指導医
所属学会
- 日本内科学会
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