ピロリ菌

Medical ピロリ菌

MEDICALピロリ菌とは

ピロリ菌とは、胃の粘膜に生息する、らせん状の形状をした細菌です。胃の中には、強い酸の胃酸があるため、通常、細菌は生息することができませんが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を用いて、胃酸を中和し、環境をアルカリ性にすることで、胃の中で生息することができます。
ピロリ菌の感染経路ははっきりとはわかっていませんが、主に幼少期に、汚染された食べ物や井戸水などを介して感染したり、家族間で人から人へと口を介して感染すると考えられています。ピロリ菌の感染率は、上下水道が十分に普及していなかった世代の人に感染率が高く、乳幼児期の衛生環境が関係していると考えられています。
ピロリ菌は毒素を分泌するため、胃に慢性的な炎症を引き起こし、慢性胃炎がゆっくりと進行して萎縮性胃炎になり、胃がんが発生しやすくなると考えられています。ピロリ菌に感染してから数十年の経過を経ると、3~5%程度が胃がんを発症すると言われています。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などは、ピロリ菌感染者のおおむね10~15%程度が発症します。

MEDICALピロリ菌の症状

ピロリ菌に感染すると、ほとんどの人に慢性的な胃炎が起こります。
胃炎そのものの自覚症状はありませんが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができると食後や空腹時にみぞおちの辺りの痛みが生じたり、胃がんになると腹痛や腹部膨満感、嘔吐、体重減少、貧血などの症状が起こります。
胃潰瘍十二指腸潰瘍慢性胃炎胃がんのほとんどはピロリ菌が原因となって起こり、他にもMALTリンパ腫や血小板減少性紫斑病もピロリ菌が原因となって起こることがあります。胃の疾患は、症状が出なくても密かに疾患が進行していることがあるため、注意が必要です。

MEDICALピロリ菌感染が引き起こす
病気

慢性胃炎

ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が放出する毒素や炎症性サイトカインによってほとんど100%の方に慢性的な胃炎が起こります。
慢性胃炎は胃の出口付近(前庭部)から胃の中心部(胃体部)にかけて起こることが多く、胃もたれや吐き気、みぞおちの辺りの痛み、胸やけ、胃痛、胃の不快感などの症状を起こしますが、人によっては全く症状が出ないこともあります。

萎縮性胃炎

萎縮性胃炎とは、慢性胃炎が続くことで、胃液や胃酸を分泌する組織が減少し、胃の粘膜が薄くなってしまった状態です。通常、胃を含む消化管の細胞は数日の期間で入れ替わるターンオーバーが起こりますが、ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が産生する毒素によって胃上皮細胞のターンオーバーが抑制され、慢性的な胃炎が引き起こされます。
これによって慢性胃炎が長期に続くと、胃粘膜の萎縮が起こると考えられています。
萎縮性胃炎の症状は、胃もたれや胃痛、胸やけ、吐き気、みぞおちの辺りの痛み、胃の不快感などで、人によっては全く症状を感じない方もいます。他にも、自己免疫(自分を自分で攻撃してしまうようなメカニズム)によっても胃粘膜の炎症や萎縮が起こることがあり、このタイプの萎縮性胃炎をA型胃炎と呼びます。
初期の萎縮性胃炎では、除菌治療により胃粘膜の慢性炎症が改善し、胃粘膜が再生して萎縮が部分的に改善されることがありますが、進行した萎縮性胃炎では完全な回復は難しいことが多く、除菌治療により炎症が軽減されても、すでに進行した萎縮が元に戻ることは難しいとされています。そのため、萎縮の範囲が進む前に、若いうちから除菌治療を行うことが重要です。

胃・十二指腸潰瘍

長期的な慢性胃炎に加えて、喫煙やストレスなどの環境因子によって、胃酸から胃壁を守る粘液の分泌が抑制されると、胃や十二指腸の壁が傷つきえぐれた状態(胃・十二指腸潰瘍)となります。
胃・十二指腸潰瘍は進行すると、胃や十二指腸の壁に孔が空く「穿孔」という症状を起こしたり、潰瘍内の露出した血管から出血を起こす(出血性胃・十二指腸潰瘍)こともあります。胃・十二指腸潰瘍の症状は、みぞおち辺りの痛みや胸やけ、背中の痛み、吐き気、嘔吐、下血などがありますが、人によっては全く症状を感じず、突然吐血を起こし緊急搬送されることもあります。

胃がん

胃の粘膜内の細胞が、何らかの刺激や原因でがん細胞になることで胃がんが発生します。胃がんを引き起こす原因の99%はピロリ菌です。ピロリ菌に感染した方の全てが胃がんを発症するわけではありませんが、75歳までのピロリ菌感染者の約8%は胃がんになると言われています。
また、胃がんは75歳以降に発症する方が多いため、全年齢的に推測すると、ピロリ菌感染者の約10%は胃がんを発症すると考えられます。胃がんは、ピロリ菌の感染による慢性胃炎が萎縮性胃炎へと進行し、そこに喫煙や高塩分食などの環境因子が加わることで発症すると考えられています。
また、東京大学医科学研究所の研究によると「ピロリ菌が産生するたんぱく質(CagA)が胃がん発症に関わる細胞増殖と炎症反応を異常促進する」と報告されています。
ピロリ菌を除菌することで胃がんの発生率が30~40%低下する、という報告や、早期胃がんに対して治療を受けた方に除菌治療を行うことで、別の部位に新しくできる胃がんの発生率が3分の1に減少するという報告もあります。

胃 MALT リンパ腫

胃MALTリンパ腫とは、悪性リンパ腫の一種で、胃粘膜や腺組織に発生する低悪性度のB細胞リンパ腫です。そもそも悪性リンパ腫とは、私たちの体を流れる血液中に存在するリンパ球と呼ばれる、感染や遺物などから体を守っている細胞ががん化する病気です。
リンパ球は、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞などに分類され、胃MALTリンパ腫は、このうちBリンパ球ががん化した病気です。自覚症状はありません。MALTリンパ腫は扁桃や肺、甲状腺、唾液腺などにも生じますが、消化管が最も多く約半数を占め、そのうち85%は胃に発症します。
全悪性リンパ腫に占める割合は7~8%と言われています。また、胃MALTリンパ腫は、胃に発生する悪性リンパ腫の約40%を占めるとされています。一般に良性の経過をたどりますが、時に大細胞型びまん性リンパ腫という悪性度の高いリンパ腫へ移行してしまうことがあります。ピロリ菌陽性率は80~90%であり、ピロリ菌の除菌治療のみで70~80%の患者様が回復します。一方、ピロリ菌に感染していない場合には、放射線化学療法や手術が行われることもあります。

胃過形成性ポリープ

胃過形成性ポリープとは、ピロリ菌感染による慢性胃炎を引き起こしている胃粘膜に発生する、赤みを帯びたポリープです。ピロリ菌感染と関連が非常に強いポリープであることから、胃過形成性ポリープと診断された患者様は、ピロリ菌感染の有無を確認することが望まれます。
自覚症状はなく、健康診断や人間ドックなどの胃カメラ検査などで発見されることがほとんどです。
ピロリ菌の除菌治療を行うと、約80%の患者様でポリープが小さくなったり消失します。10mm以上の過形成性ポリープからがんが発生する頻度は約2%と言われており、定期的に内視鏡検査を受けることが必要です。
大きさが2cmを超えて除菌治療で縮小しない、貧血の原因になる過形成性ポリープは内視鏡治療を検討することがあります。

機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシア(FD)とは、胃カメラ検査などの胃の検査では、異常が見つからないにも関わらず、
みぞおちの辺りの痛みや胃もたれ、げっぷ、胸やけ、腹部膨満感などの症状が続く疾患です。原因の1つとしてピロリ菌感染が考えられており、ピロリ菌の除菌治療によって症状が改善されることがあります。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)とは、何らかの原因で免疫に異常が生じ、自己免疫が自身の血小板を攻撃してしまうことで血液中の血小板が減少し、出血が起こりやすくなる疾患です。
特発性血小板減少性紫斑病の患者様のうち、ピロリ菌陽性者に対してピロリ菌の除菌治療を行ったところ、40~60%の患者様に血小板の増加が認められたという報告があります。

MEDICALピロリ菌の検査

ピロリ菌検査の保険適用

現行のガイドラインでは、ピロリ菌の検査は、胃カメラ検査を行い慢性胃炎の所見がある方のみ保険適用となります。
また、検査の回数や期間についても制約があります。ピロリ菌のみの検査では保険適用とはなりません。ピロリ菌の検査には、胃カメラ検査の最中に組織採取して調べる方法と胃カメラを使わない方法の2種類に分かれます。

胃カメラを使用する検査目

迅速ウレアーゼ試験

迅速ウレアーゼ試験とは、内視鏡を用いて胃の組織の一部を採取し、ピロリ菌が産生するウレアーゼという、尿素を分解する酵素の活性を利用して、ピロリ菌の有無を調べる検査です。
特殊な反応液の色の変化で判定でき、短時間で結果が出ます。ピロリ菌がいない粘膜から組織を採取してしまった場合、実際にはピロリ菌がいるのに陰性になる可能性(偽陰性)があります。

鏡検法

鏡検法とは、内視鏡を用いて胃の組織の一部を採取し、ホルマリンで固定して特殊な染色をして、顕微鏡で直接見てピロリ菌の有無を調べる検査です。診断精度はやや低くなります。

培養法

培養法とは、内視鏡を用いて胃の組織の一部を採取して、5~7日間培養して、ピロリ菌の有無を判定する検査です。
培養するための時間が必要ですので、検査結果が出るまで1週間程度かかりますが、効きやすい抗生物質を調べる感受性試験には有用です。

胃カメラを使用しない検査

抗体検査

抗体検査とは、体内に生成される抗体の有無を調べることで、ピロリ菌の感染を判定する検査です。
血液や尿を使って抗体を測定します。内服薬や食事などの影響を受けませんが、ピロリ菌の除菌に成功しても抗体値が完全に下がるまでに1年以上かかるため、除菌の効果判定に用いることはありません。

尿素呼気試験

尿素呼気試験とは、容器に息を吹き込んで呼気を集め、呼気からピロリ菌の有無を調べる検査です。
ピロリ菌が産生するウレアーゼは尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解することを利用して、特殊な尿素製剤である試験薬を服用し、服用の前後の呼気に含まれる二酸化炭素の割合からピロリ菌の有無を判定します。
尿素呼気試験は、簡単な検査で感度も高く、患者様への身体の負担がほとんどないという特徴があります。
正確な検査を行うためには、検査4時間以内に食事をしていないこと、検査2時間以内に飲水をしていないことが条件となります。

抗原法

抗原法とは、糞便からピロリ菌の抗原の有無を調べる検査方法です。
抗原法は患者様への身体の負担がなく、事前の食事制限もなく小児でも可能な検査方法です。感染の有無を調べる検査としても、除菌の効果判定検査としても信頼度が高いとされています。

MEDICALピロリ菌の除菌方法

ピロリ菌感染症が確定した方は、除菌療法を行うかどうかを医師と相談してください。ピロリ菌の除菌療法は、胃酸の分泌を抑える薬と抗菌薬を1日に2回、7日間服用することで行います。
1種類の胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗菌薬の3剤を同時に服用します。治療終了から8週間後に、ピロリ菌が除菌できたか調べるため、ピロリ菌の有無を調べる検査を行います。

除菌療法の成功率

1回目のピロリ菌の除菌療法の成功率は、80%前後とされています。
ピロリ菌が除菌できなかった場合は、2種類の抗菌薬のうちの1種類を初回と別の薬に変えて、再び除菌療法を行います(二次除菌療法)。ほとんどの場合、二次除菌療法までで除菌が成功します(除菌成功率:約90%)。
なお、胃カメラ検査を受けている場合は、1回目と2回目の除菌治療は保険適用となりますが、3回目以降の除菌治療は保険適用されないため、自費診療となります。

ピロリ菌除菌の注意事項

これまでに薬を飲んでアレルギー症状を起こしたことがある方や、ペニシリン等の抗菌薬の服用で、ショック等の重篤なアレルギー症状を起こしたことがある方、抗菌薬や風邪薬で副作用を経験したことがある方は、ピロリ菌の除菌療法を受ける前に、主治医に必ず相談してください。

ピロリ菌除菌における副作用

ピロリ菌の除菌薬を飲むと、下痢や腹痛などの消化器症状や味覚異常、発熱、発疹などの副作用が起こることがあります。症状に応じて以下のように対応しましょう。

軟便、軽い下痢などの消化器症状や味覚障害が起きた場合

軟便、軽い下痢などの消化器症状は、抗生物質によって腸内をが刺激されたり、腸内細菌のバランスが変化したことにより起こるとされていますが、2~3日でおさまることがほとんどです。
また、食べ物に苦みや金属のような味を感じるなどの味覚障害や口内炎が生じる場合もありますが、これも2~3日でおさまることがほとんどです。症状が軽ければ個人の判断で薬の服用量を減らしたり、服用回数を減らしたりせずに、通常通り薬の服用を続けてください。ただし、症状がひどい場合は、主治医や薬剤師に相談してください。

発熱や腹痛を伴う下痢、粘液便、血便、発疹といった症状が起きた場合

発熱や腹痛を伴う下痢や粘液便、血便、発疹といった症状が起きた場合は、直ちに薬の服用を中止し、医師または薬剤師に連絡してください。その他の気になる症状がある場合も、医師または薬剤師に相談してください。

ピロリ菌除菌は途中でやめても良い?飲酒や喫煙は?

確実にピロリ菌を除菌するためには、途中で除菌薬の服用をやめずに最後まで飲み切りましょう。自身の判断で服用を中止すると、除菌に失敗するだけでなく、治療薬に耐性をもったピロリ菌が発生することがあります。
薬の飲み忘れも除菌成功率を下げてしまうため、毎日指示されたタイミングで服用できるよう携帯電話のアラームなどを活用してしっかり服用を続けましょう。また、お酒やたばこは胃酸の分泌が促進され、除菌率を低下させる可能性が示唆されています。除菌率を高めるためには、お酒もたばこも控えることを強くお勧めします。
特に、二次除菌療法を行っている場合は、使用するメトロニダゾールという抗生物質とお酒の相性が悪いため、その期間の飲酒は避けてください。メトロニダゾールはアルコールの代謝・分解過程のうち、「アルデヒド脱水素酵素」を阻害する作用があるため、メトロニダゾールとアルコールを併用すると、体内でアセトアルデヒドの濃度が高まり、頭痛や吐き気といった「二日酔い」状態を引き起こしてしまいます。

監修医師 安江 千尋

安江 千尋

院長資格

専門医
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
指導医
  • 日本消化器内視鏡学会指導医

所属学会

  • 日本内科学会
  • 日本消化器病学会
  • 日本消化器内視鏡学会
  • 日本大腸肛門病学会
  • 日本消化管学会
院長紹介
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