過敏性腸症候群

Medical 過敏性腸症候群

MEDICALこのような症状でお困りですか?

過敏性腸症候群には、国際的な消化器病学会の診断基準であるRome IV基準があります。
直近3ヵ月間で、月に4日以上にわたって腹痛が繰り返し起こっており、さらに以下の特徴が2項目以上当てはまる場合は過敏性腸症候群の可能性があります。

  • 排便によって腹痛がやわらぐ
  • 症状とともに排便の回数が増減する
  • 症状とともに便の形状が変わったり、便が硬くなったり柔らかくなったりする

こうした条件に当てはまる症状が6か月以上前からあって、過去3か月間このような基準を満たしている場合、過敏性腸症候群と診断できます。
もし、これらの症状の他に、血便や発熱、体重減少といった症状がある場合は、別の疾患が疑われるため、早めに病院を受診しましょう。

MEDICAL過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群とは、検査を受けても大腸に腫瘍や炎症などの器質的な疾患が無いにもかかわらず、腹痛やお腹の張りなどの違和感、便通の異常が数か月以上にわたって続く状態のことです。
腹痛などは排便によって良くなるのが特徴的です。消化器疾患では患者数がとても多い病気で、先進国に多く、日本人の10~15%に過敏性腸症候群が見られると言われています。命に危険はありませんが突然の腹痛でトイレに駆け込むなど生活の質を大きく下げ、仕事や学業にも支障を生じる可能性があります。男性より女性の方が発症しやすく、特に20~40代の若い方に多く発症し、歳をとるごとに症状を訴える方が減ってくるという特徴があります。
過敏性腸症候群は、便通異常の特徴から、4つのタイプに分類され、便秘症状が主となる「便秘型」、下痢症状が主となる「下痢型」、便秘と下痢を繰り返す「混合型」、他の3つのタイプに当てはめることが難しい「分類不能型」があります。男性には下痢型が多く、女性には便秘型が多いという傾向があります。
過敏性腸症候群の原因ははっきりとはわかっていませんが、ストレス・腸の過剰な運動・腸の知覚過敏が発症に大きく関与していると考えられています。腸は「第二の脳」といわれるほど、脳と密接に関連しており、ストレスや疲労などを感じるとコントロールする自律神経のバランスまで乱れます。
他にも腸の炎症性疾患や食物アレルギー、高脂肪食、炭水化物や乳脂肪が多い食事、腸内フローラの変化などが影響を及ぼす可能性があると考えられています。

MEDICAL過敏性腸症候群はストレスの影響?

過敏性腸症候群は、男性では腹痛やお腹の不快感を伴う「下痢型」、女性では「便秘型」が多いとされています。過敏性腸症候群は致命的な疾患ではありませんが、電車の中やトイレのない環境に長時間いられないなど、生活の質(QOL)を著しく損なうため、不安や苦痛が大きい慢性疾患です。
過敏性腸症候群の原因ははっきりとはわかっていませんが、最近の研究では、何らかのストレスが加わると、脳下垂体からストレスホルモンが分泌され、その刺激によって腸の動きがおかしくなることで症状が起こるとされています。
また、ストレス刺激が繰り返されることで、腸が刺激に対して反応しやすい「知覚過敏」になり、さらに症状が起こりやすくなるという悪循環が起こります。

MEDICAL過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群の治療では、主に生活習慣(食生活、睡眠)の乱れや精神的ストレスの改善を目指します。さらに症状に合わせて、薬物療法を行います。

食生活改善

栄養バランスのとれた食事を、1日3食、規則正しくとってください。食生活改善では、胃腸に負担をかける暴飲暴食、寝る直前の食事、脂肪分の多い食べ物や香辛料などの刺激物、アルコール、コーヒー、炭酸飲料などを控えるようにします。
食物繊維は便の材料を増やし、腸内の滞在時間を長めにする働きがあり、下痢型や混合型の方に有効です。さらに、腸内フローラを整えるために、ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品の摂取を行うことも有効です。

薬物療法

薬物療法では、腸管の内容物を調整する薬物や、腸管の機能を調整する薬物を用います。下記の薬物が多く用いられ、これらを組み合わせて治療します。

ポリフル・コロネル(高分子重合体)

ポリフル・コロネルは、合成樹脂の一種で、吸水性が高く、大量の水分を吸収してゲル化することで、便に適度な水分を含ませ、便の容積を増加させる薬です。過敏性腸症候群の基本的な治療薬とされていて、便秘型・下痢型の両方に対して用いられます。
安全性の高い薬ですが、腹部膨満感や腹痛などの症状が起こる場合があります。
また、酸性条件下でカルシウムが遊離して薬の効果が期待されますので、胃切除後や胃酸の分泌を抑制する薬を服用している方では、十分に効果が発揮されない場合があります。

セレキノン

セレキノンは、弱った腸管の蠕動運動を活発化させ、逆に過剰な蠕動運動を抑制する薬です。
腸の動きが活発になっているときは動きを抑制し、低下しているときには促して、腸の動きを整えるため、便秘型・下痢型・混合型のいずれのタイプにも効果があるとされています。

イリボー(セロトニン受容体(5-HT3受容体)拮抗薬)

イリボーは、下痢型の特効薬とされています。
下痢型の過敏性腸症候群では。セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が大きく関わっています。ストレスなどによってセロトニンが放出されると腸の運動が活発になることで排便が亢進され、下痢を引き起こします。
また、腸で放出されたセロトニンによる刺激や興奮が脳に伝わり、腹痛を感じることがあります。これらの症状に関わるセロトニンですが、これらの作用はセロトニンがセロトニン受容体(5-HT3受容体)に作用することで起こります。
イリボーはこのセロトニン受容体(5-HT3受容体)を阻害することで、下痢や腹痛を改善する効果があります。ただし、注意点としては、長期にわたって男性の過敏性腸症候群を治療しますが、女性に対してはあまり使用されません。
臨床試験において、イリボーを投与しても女性の過敏性腸症候群を有意に改善できなかったことがわかっており、さらには男性に比べて女性では副作用が出る確率が高いことが確認されているからです。

トランコロン

トランコロンは、過剰な腸管運動を抑制する薬です。胃腸の運動は、副交感神経によって調節されています。副交感神経が過剰に興奮すると、腸管運動が過剰になり、腹痛や下痢の症状が起こります。
トランコロンは、副交感神経の過剰な興奮を抑える働きがあり、その結果、胃腸の運動が抑えられ、過敏性腸症候群にともなう腹痛や下痢症状が改善されます・腹痛が強い方に向いており、便秘型には不向きであるとされています。
便秘や排尿障害、視調整障害、眼圧上昇、口渇、眠気、めまい、心悸亢進(動悸や拍動が以上に強く早くなる)などの副作用があり、前立腺肥大や緑内障の方には禁忌とされています。

ロペミン

ロペミンは、強力な下痢止め剤で、ロペミン以外の下痢止め剤は過敏性腸症候群の治療には勧められていません。
ロペミンは、腸のオピオイド受容体を刺激してアセチルコリンの遊離を抑え、腸の運動を抑制します。旅行やイベント時の頓服として使用されます。

ガスモチン(5ーHT4受容体刺激薬)

ガスモチンは、日本で唯一使用できる5-HT4受容体刺激薬で、胃や大腸に局在している5-HT4受容体を刺激することで、アセチルコリンの分泌を促して、腸管運動を活発にさせる働きがあるため、「便秘型」に対して有効であるとされています。
アセチルコリンは体を休めている時に分泌される物質で、食事中など、体が落ち着いている時はアセチルコリンが分泌されて胃や腸などの消化管の動きが活発になります。
しかし、過敏性腸症候群の治療に対しては保険適用がありません。

下剤

便秘型の過敏性腸症候群の患者様には下剤を処方することがあります。浸透圧性下剤のエビデンスが豊富で、日本では酸化マグネシウム、海外ではポリエチレングリコールが主流ですが、最近では日本でもポリエチレングリコール製剤のモビコールが使用できるようになりました。
浸透圧性下剤は腸内に水分を引き込むことで、便の水分含量を増価させ、便を柔らかくし、排便を容易にします。腸内の水分バランスを調整し、便秘を改善します。

アミティーザ、リンゼス、グーフィス(粘膜上皮機能変容薬)

アミティーザ、リンゼス、グーフィスといった粘膜上皮機能変容薬は、腸管内への腸液の分泌を促進し、便を柔らかくし、腸管内輸送を高めることで、排便を促進します。便秘型に有効とされています。
アミティーザは小腸のクロライドチャネルを活性化して腸管へ水分分泌を促進することで便秘を改善する薬です。他の2つの薬とは違い、1日2回食後に服用します。食前だと吐き気や悪心が出やすいため、特に副作用が出やすいとされている女性は食後に服用しましょう。
ただし、妊娠中は禁忌の薬のため注意が必要です。リンゼスはグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化しcGMPを増やし間接的に腸管内の水分を増やします。3つの中で最も副作用が少なく安全性の高い薬ですが、食後に服用すると下痢の副作用が出やすいため、食前に服用するのが良いとされています。グーフィスは胆汁酸の再吸収を特異的に阻害することで腸内に胆汁酸をたくさん送り込み、水分の分泌と大腸の動きを改善する作用のある薬です。
食後はすでに胆汁酸の分泌が始まっているため、食前に服用するのが良いです。飲み始めは副作用として腹痛がよく見られますが、継続することによってその副作用は軽減されていくため、1回服用して調子が悪くなったから服用中止するのではなく、しばらく継続して様子を見る必要があります。

最初の治療が効かないとき

  • 再度器質的疾患の検討
  • 併用薬の検討
  • 生活指導、食事療法
  • メンタル的治療薬の検討
漢方薬の併用

「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」は腹痛を伴う便通異常の改善効果があるとされており、便秘やお腹の張りが強い場合は、「桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)」が処方されることもあります。
「大建中湯(だいけんちゅうとう)」は、冷えを伴う腹痛やお腹の張りのある便秘型に効果があるとされています。からだを温めて胃腸の調子を良くし、腹痛や腹部の冷え、腸の蠕動を改善する作用があります。
ストレスや心理異常のある下痢型には「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」が有効とされています。

抗うつ薬・抗不安薬の併用

三環系抗うつ剤とSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は有効なことがあり、少量で効果が見られることが多いです。他の系統の抗うつ剤の効果はエビデンスがありません。
不安が強い場合は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いることがありますが、依存性の問題があるため、長期の使用は注意が必要です。
非ベンゾジアゼピン系抗不安薬では、セディールが有効なことがあるとされています。

食事の検討

アレルギー除去食や低FODMAP食を検討します。

低FODMAP療法

FODMAPとは

FODMAPとは、Fermentable(発酵性) Oligosaccharides(オリゴ糖)Disaccharides(二糖類)Monosaccharides(単糖類)and Polyols(ポリオール)の4つの糖類の頭文字で、これらの糖類は小腸内で消化吸収されにくいため、そのまま大腸に運ばれ、腸内で異常発酵します。
FODMAPが腸内で異常発酵すると、過剰の水素ガスが発生し、お腹の張りや便秘の原因になります。また、浸透圧により腸管内腔へ水分が溜まり、小腸が刺激されることで、過剰な蠕動運動が起こり、下痢の原因となります。
そのため、これらのFODMAPを多く含んだ食品を制限することは、過敏性腸症候群の改善に有効であるとされています。FODMAPを多く含む食品は以下の通りです。低FODMAP食を徹底するのは大変であるため、できる範囲で取り入れるのがお勧めです。
一般的にオリゴ糖は腸内環境に良いとされていますが、過敏性腸症候群の場合には逆効果になります。


発酵性オリゴ糖を多く含む食品

小麦粉、大麦、ライ麦、らっきょう、たまねぎ、大豆、ひよこ豆、レンズ豆、ニンニク、アスパラガスなど

二糖類を多く含む食品

牛乳、豆乳、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズなど

単糖類を多く含む食品

りんご、スイカ、マンゴー、はちみつなど

ポリオールを多く含む食品

干し柿、乾燥昆布、ソルビトール、キシリトールなど

MEDICAL「検査で異常がない」≠
「病気ではない」

検査で異常がみつからないからといって、必ずしも病気ではないというわけではありません。過敏性腸症候群は、生活改善などの非薬物的アプローチと、内服治療による薬物的アプローチを同時に行い、症状の改善を試みることが重要です。

一度、過敏性腸症候群と診断されても、症状の変化によっては再検査が必要になることもあります。過敏性腸症候群は症状の波があることを理解し、医師と相談しながらゆっくりと治療していきましょう。

監修医師 安江 千尋

安江 千尋

院長資格

専門医
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
指導医
  • 日本消化器内視鏡学会指導医
  • 日本消化器病学会指導医

所属学会

  • 日本内科学会
  • 日本消化器病学会
  • 日本消化器内視鏡学会
  • 日本大腸肛門病学会
  • 日本消化管学会
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